<><><><><><><><><><><><><><><><><><>

稲取の”かかあ天下”2011/01/29

船揚場の工事


稲取のご婦人はよく働きます。主婦の仕事以外に、朝が早い漁師宅ではその準備を手伝い、船が上がってくると岡で獲物を待ち、いろいろ作業を手伝います。また、農家では野良仕事を分担します。“かかあ天下”は全国でよく使われる言葉で、夫婦円満の側面をよく表していますが、稲取においては婦人の地位がかなり高いという意味も持っているようです。

「稲小百年史 遷喬」や「稲取風土記」「東伊豆町史」などを読むと、婦人たちが自我に目覚め、早くから組織的に活動していたことが記されています。そんなひとつに、伊豆稲取町婦人学級が編んだ「町の歴史」(19582月)があります。

婦人たちの手で編んだ本書は家庭生活の煩雑さにかまけることなく社会参加のなかで自己研鑽に励み、ひいては稲取の意識改革や生活の向上を目指そうと、当初、わずか3名でスタートし、その後大勢の参加を得て出来上がったものです。

その主眼とするところは、次第に失われつつある稲取の特異な風俗、習慣などを記録しておくところにあります。その主な手段は町の古老からの聞き取りでした。そして町の公文書を参照し、集会を重ねて執筆へと進んだのです。

住まいの歴史の項目では、稲取に多かった火事の例が具体的に挙げられており、臨場感を持って読み進めることができます。また、衣生活や子供の生活の歴史では衣類や子供の遊びなどが事細かに記されています。その他、漁業のあゆみと農家の暮らしの歴史が参考になりました。中でも、全村あげてのイルカ漁は圧巻です。

ただ、町の図書館などの蔵書にもなっている本書は復刻版で、それなりの体裁をたもっていますが、文字印刷が読みづらく、仔細な叙述を読み進めるのに忍耐が必要な部分もありました。編集がもう少し行き届いていたら、本書の優れた点がもっと引き出せたのではないでしょうか。貴重な資料として数多くの人に読まれるべきを思うと残念です。