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緑の谷間2017/05/15

大洞の谷は国道135号から容易にたどりつける。今この谷を囲む林、否、森はミズキの萌黄色が他の雑木林の濃緑の中で、水彩画に描かれたようにやさしくボケて目に届く。そして、この谷を埋めているミカンの低木は一斉に白い花を付けて独特の香りを周囲に放っている。

今朝はまたこの谷に入ってみた。時に野良仕事に精を出す人の姿を見かけないこともあるが、一人に出会うと不思議に行く先、行く先で出会いが叶うことがある。今朝はその不思議な日だった。

先ずは谷の入口でTさんがオーイと手を挙げて呼んでいる。畑の中に軽トラを乗り入れて道具を出しているところだった。「隣でSさんがやり始めたからね」と言って、草刈り機を荷台から降ろした。それからプランターの苗を手に持った。ゴーヤの苗だそうだ。

取りあえずそれを抱えて竹で囲った場所まで持っていった。そこにはもう既にいろいろな形の苗が空き地がないほど列をなして育っている。彼は、どこに植えようかなと言って、今度は竹を集めた所から2,3本引き出してきた。

他にも同じような区画があって、そこも整然と青葉・若葉が並んでいた。彼はそれらの名前をいちいち説明してくれたが、今はもう忘れてしまった。唯一覚えているのは白ナスである。白いナスがあるなんて知らなかった。

その間にもイヌマキの生垣で仕切られた隣の畑では、Sさんの草刈り機の音が絶えず聞こえていた。「農家はやることがいくらでもあるんだよ」と言いながらも、Tさんは草刈り機を手にすることなく私の話し相手になってくれる。

「Bさんも始めたか」と彼が言った方角を見やると、ご婦人が二人でやはり草刈り機を回していた。それを汐に私は邪魔を詫びてTさんの畑を後にした。

谷へ降りる途中にイチゴの苗を育てる高床の列がある。床の上には水道管が各列に引かれて元栓を開ければシャワーが出るようになっている。去年の秋口から“空き家”になっていたその高床の台に軽トラで運んできたイチゴの苗鉢をきちんと並べているKさんの姿があった。今年もまたその作業が始まったのだ。この苗鉢はまた秋口までここに置かれて暑い夏をやり過ごすことになる。

Kさんとは今回は通りすがりに挨拶を交わしただけで先を急ぐことにした。谷に下りると、果たして期待した通りご婦人のFさんにお会いすることが出来た。