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ふれあいの森のHL 62019/07/16

六) 魑魅(ちみ)魍魎(もうりょう)

伊豆東部総合病院は長らく続いた改修工事が平成三十年に管理棟や病棟それに駐車場などすべて竣工し、あらためて康心会伊豆東部病院として再出発しています。その下の国道周辺の字は「赤坂」と言い、国道から山側には細い道が病院・墓地そして「ふれあいの森」や「水乗り」へと続いています。それから、この細い坂道が「いろは坂」と呼ばれていたことも二、三の方から聞きました。そこで、私は勝手に「赤坂いろは坂」と命名し、国道から下の海岸通りに出る道を「下の赤坂いろは坂」と呼ぶことにしています。 

この道は昔、子どもたちが遠足で通ったルートの一つと言われています。港周りの道から赤坂いろは坂を通ってふれあいの森に上がり、現在のクロカンコースから、当時は無かった動物園(初代バイオパーク、現在はアニマルキングダム)の斜面を這い上がって「おきのはら」で終日遊んだという、そう遠くない話を現在働き盛りの方々からも聞いています。

クロスカントリーコースのスタート地点から最初に左へターンする場所の山側(北)にあまり歩かれていない道があります。そこに入って奥の方へ詰めてゆくと、円形の貯水槽のある所で道は左へ巻いてゆきますが、ちょうどその辺りが谷状になって水が流れ落ちてきています。その筋を細い導管に順って少したどれば、水源にたどり着けます。この水源が実は昔、「いっぺえ水」と言われた湧き水の源でした。子供たちはここで喉の渇きを癒した後、その斜面を登って現在のアニマルキングダムのある高み、即ち「おきのはら」に出たのでした。          いっぺい水

 

ところで、この「いろは坂」は全線を通じて軽自動車以下でないと通行出来ません。コンクリートの舗装はされていますが、普通車が通行できない細い道です。特に墓地の上からゴミ焼却場手前の管理センターにかけては軽でもやっと通れるくらいです。

その細い道は九十九折になっており、急坂の途中に一息つける“小峠”のような所があります。東にさくらの広場や町営住宅に出る道を分けたところです。実は、この墓地の上から“小峠”にかけては鬱蒼とした森の中に暗い径が続き、往来する人はある種の覚悟をせねばなりません。

 

“魑魅魍魎も影ひそめ・・・”という、ある旧制高等学校の寮歌の一節がありますが、私はここを上り下りするたびにその幻影に怯えながら出来るだけ早く通過しようと喘ぐのです。

何年か前に散歩仲間の知人と一緒にゴミセンターの方から下って来て、この小峠に差し掛かった時に軽トラの荷台からミカンを谷の中に大量に落としているのを目撃したことがありました。知人はこの光景を見て諭すように相手に話しかけました。すると相手はミカンは植物だから、そのうちに土に戻るよと嘯いたではありませんか。知人は更に穏やかに問いかけましたが、相手はうわのそら。結局、埒が明かず、その場を離れたのでした。この人は多分、近隣のミカン農家の方と思います。いずれにしても廃棄物の違法投棄です。付近に投棄を禁じる看板が立っているにもかかわらず、こういう行為をするというのはどういう了見なのでしょうか?

この行為はその後も毎年続いています。

 

また、ある夕暮れどき、一人でこの小峠に下りて来て間もなくの所で、ある怪人物の奇妙な行動を目撃しました。何と、ワニのように地面に腹ばいになって、身をくねらせながら坂を下っていたではありませんか! その恰好はどう見ても、野生動物のそれです。私は一瞬凍りつきました。家の中とか、しかるべき場所ならば、床を這いつくばる行為も特に問題視することはないでしょう。例えば、運動としてみれば、体幹を鍛える効果があるかも知れません。でも、現場は落ち葉あり、散乱した木の枝あり、石ころありの荒れた急な下り道です。誰が好んでこんな所で運動の真似をするでしょうか?あるいは、この人は自分を野生動物に擬して、どこまで耐えられるか可能性を確かめていたのでしょうか?それとも、一時的にも動物に転生した世界に生きようとしていたのか?いずれにしても、怪人物の謎は深まるばかりです。私はこの現実とは思えない光景におそれをなして、あわてて別のルート、小峠から町営住宅の脇に出る道を下り、稲取高校を回り込んで帰ることにしたのでした。


 

かように、この坂は不法投棄者や怪人物などの魑魅魍魎がときに跋扈する怪しくも恐ろしい坂道でした。そして、怪人物とは、何と、あのホームレスのお婆さんだったとは!

背中の頭陀袋にこうもり傘が入っていたからです。彼女は不思議な人で、修験者のように野山を終日歩き回っても疲れを知らない人でした。なにかの術を体得したかのように、究極のアウトドア・ウーマンを思わせるお婆さんでした。

 

さて、この暗く怖い森の径でも、ホッとする光景に出くわしたことも記しておくべきでしょう。それはやはりこの坂を下って来た時でした。九十九折のラス前のターンで、コジュケイの親子数羽が突然出現した私の姿に驚いて、あわてて退散する様子をじっくり観察できたことです。 

数羽の雛のうちの一羽が枯れ葉につまずいて転びました。そしてもがきながらやっと立ち直ったときには、他の雛は既に叢の中に逃げ込んでいました。ところが親鳥がこの雛たちとは反対側の叢の方に、翅を大きく広げて逃げ出そうとしていました。 

これは明らかに偽傷行為です。敵の関心を自分の方に向けて、その間に雛が逃げ込むのを助けようとする涙ぐましい行動です。私はずっと以前に北アルプスの朝日岳で雷鳥のそうした光景を見たことがありました。親鳥のこうした行為には感動したものです。

転んでもがいていたコジュケイの雛が可愛かったですね。このときは“魑魅魍魎”も影を完全に潜めたと言ってよいでしょう。この“赤坂いろは坂”も捨てたものではないですね。

 

そして、このころを最後にホームレスのお婆さんもこの稲取から姿を()してしまいました。もっとも、近いうちに稲取を去って別の所へ行くつもりだと本人の口から聞いたことがあり、いつのことかと気を付けていたのですが、気が付いたらいなくなっておりました。ふれあいの森のトイレもきちんと掃除され、現在は通常通り一般の人が気持ちよく利用出来るようになっています。




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