ふれあいの森のHL 5 ― 2019/07/15
(五) ふれあいの森とホームレス
午後になって“稲取ふれあいの森”は小ぬか雨に煙ってきました。どうやら明日にかけて降り続くようです。今日明日は多少温度が上がるようですが、この時期、このふれあいの森を見上げるたびに思うのは、あの展望台のトイレで寒さに震えているのではないかと心配されるホームレスのことです。ホームレスとわかってから一年が経ちました。今は年齢64,5歳のこの女性ホームレスを初めて見たのは、私どもが当地に来て間もない三年前のことでした。その時は「林の沢」の吾妻権現神社に参拝し、石段を降りて鳥居をくぐり目の前のイノシシ小屋を過ぎた所で会い、二言三言交わしました。彼女は異様な風体ではありましたが、その後に会った時に町営住宅に住んでいると聞いていたので、ホームレスとは思いもよらぬことでした。
きのう久しぶりにそのトイレを覗いたところ、入り口にきちんとした大きな包が2個、男性小用の棚に3個、夏ミカンが4個置いてあり、明らかにここで寝起きしているのが想像されました。七、八人のウォーキングのグループがこの展望テラスで休憩していたので訊いてみると、やはり何度かこの辺りで見かけており、トイレを根城にしていることも承知しているようでした。
帰宅後、役場に問い合わせてみると、実は前々から生活保護の相談を本人に持ち掛けているのに、本人がなかなか乗ってこないとのこと。受け皿を用意しないで、退避勧告だけしているのでは問題は解決しないと思っていましたが、そうではなく、本人が相談に乗ってこないのでは話になりませんね。
今年は例年より寒い日が続いており、本人の健康が心配です。また、それだけでなくこのふれあいの森は遊園地、公園でもあります。多くの町民が気を許して過ごせる憩いの場所でなければなりません。そのことを考えると、やはりこの問題は何とかしなければなりません。
手を差し伸べても本人が何故受けないのか、何か事情があるはずです。だいぶ前に三筋山の山頂で出会ったことがありました。しかも山歩きにしては軽装だったにもかかわらず、東の猿山を抜けて寒天林道から河津に出るということでした。そのコースを歩くということは単なる観光客の物見遊山では暴挙と言ってよいでしょう
。ホームレスでこんな山歩きをすることを考えると、この方は究極のアウトドア・ウーマンではないかとさえ思えるのです。
ですから、形だけ相談に来るようにと言うだけでなく、どんな生活志向をもっているのか親身になって話を聞いてあげなければなりません。その上で、この人に最適な生き方を一緒になって模索する心構えが肝要かと思われます。
それなら、オマエがやれ、と言われそうですが、個人の善意には限界があります。やはり、その前に行政が、役場の担当者が、そして福祉事務所なり、NPOなり、この問題の専門家に汗をかいて欲しいところです。稲取は観光と福祉の町なのですから。
彼女がふれあいの森のトイレを住処にしていることが分かってから、間もなくの頃、ゴミ収集所のゴミ箱をあさっている姿を見たことがあります。そこまでしているのかとガッカリしましたが、ホームレスでお金に余裕がある人など、通常では考えられませんから仕方がないことかも知れません。でも、あの超能力の保持が予想されるような彼女には不似合いな感じがしたのも事実です。
こんなこともありました。「小鳥のランドマーク」の展望台からハチマキ道を下ってゴールに向かう、急な登りの「心臓破りの丘」までの間は毎年梅雨時にアジサイの花が道の両側を埋めています。そこを歩いていた私の後ろから声が飛んできました。彼女の声でした。
「お願いがあります。カリントウとパンとコカ・コーラが欲しいんです。よろしくお願いします」 突然のことで、しかも他人から飲食物を直接ねだられたことなど、かつてありませんでしたからびっくりしました。私は彼女の顔を振り返って見ることなく、敢えて返事もせずに歩き続けました。
ただ、トイレの床で段ボールにくるまっていた彼女を見た時と同じように、突然、信じられない光景に出くわした戸惑いとともに、言いようのない寂しさ、哀しみに似た感情に襲われていました。しかし、それだけではありません。トイレの床を寝屋にしてもいい、段ボールにくるまってもいい、でも、凛とした一本筋の通った生き様が彼女の最後の砦ではなかったのか、という思いから、毅然とした自尊心、プライドをかなぐり捨てた彼女に対してやり場のない怒りを感じたのも事実です。それは彼女に責任があるわけではなく、現実にはない私が勝手に作り上げたシナリオでしかないのかも知れませんが・・・。
そして翌日、言われた通り、また他のいろいろな食べ物も購入して森に上がり、展望台の男子用トイレの棚の上に載せて置きました。そこには大きな夏ミカンが2、3個あったのを覚えています。他にも、トイレの片隅に幾つかのポリ袋の包みが置かれていました。その時、彼女は“不在”でした。
コメント
_ 岬石 ― 2019/07/16 03:13
_ inada ― 2019/07/16 10:07
イノシシ小屋には先日も訪れましたが、当時は数頭もいたのが、今は年寄りと思われる一頭だけが現れて、それでも檻の中で鼻息荒くバタバタ威嚇していました。
_ 岬石 ― 2019/07/16 18:06
_ inada ― 2019/07/17 06:58
鳥居を漠然と神社に置き換えていました。ご指摘、ありがとうございます。後で書き換えておきます。
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