仏さまを彫る ― 2022/08/07
「それでね、この講習は一回三時間コースで、持ち帰った作品をつくづく見たんだよ。なってないんだな、それが。勿論、半分も出来てないやね。貸してみろってんで、削ってやったんだ。オレも初めてだよ、こんなことするのは。そしたらね、我ながらエッと思ったのさ。出来てるじゃねーかって」
「初めてだよ、木を彫るなんてよ。それも仏さんだぜ。すっかりその気になっちゃって、次の日はこっちから押し掛けたさ。やればやるほど面白くなってね。虜になったみたい。講習には20人ほどが集まっていたな。3時間でモノにしている人は誰もいなかったから、手伝ってやったさ。仏像はね、お顔がむつかしいんだよ。線を引くのがね。ちょっと外れたらお仕舞さ。だから面白いんだな」
「たくさん作ったよ。お寺さんに寄贈もした。知り合いに頼まれて小さいのを彫った。巾着に入る仏さんをよ。亡くなったご亭主の仏さんをいつも身に付けていたいって云うのさ」そう言ってから彼は少し離れた所に留めた軽トラへ歩いて行ったので私も後に随った。ダシュバンの中から小袋を取り出すと、中に彫像が入っていた。可愛らしい仏様だ。裳裾の襞もちゃんと彫ってある。
「百羅漢というじゃないか。それ以来、この大きさのを百体作ってカヤ寺にひとまず30体納めたんだ。それも幾らもしないうちに檀家さんに気に入られて一つ減り二つ減りしたから、また30体納めたよ。それからよ、十二支があるだろ。今年は寅年だからトラを彫った。来年は卯年なんで今、ウサギを彫ってるけど、動物は難しいや。でも、それをああでもないこうでもないと考えるのさ。出来上がると達成感があるな」
子どもの頃、学校の絵の勉強はやはり得意だったそうだが、別段、絵描きになるとか考えたこともないと、私の質問を軽く受け流した。ただ、絵心はあったというから、やはりそれなりの筋の良さがあったに違いない。それがふとしたきっかっけで花開いたものと思われる。お蔭でやることは沢山あってね、という彼は現在75才だそうだ。前途は洋々と開けている。
さて、不思議な話はこれからである。またあした。
最近のコメント