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「ならいの風吹く町に」 ― 2020/10/19
「ならいの風吹く町に」 内山康生著
稲取高校は著者が社会科教諭として赴任してきた当時、「荒れた学校」で知られていた。既に中堅のベテラン教師であった彼も青年教師の如く生徒指導、家庭訪問等、獅子奮迅の働きを余儀なくされていた。何とかして学校を正常化したい。ところが、そんな折に同僚の話を小耳にいれた。「文化ホールも図書館も無いこんな町では無理だね。子どもたちが余暇に過ごす場所がないんだから」
東伊豆町に図書館を設立しようという著者の思いはそこから始まった。そして、当時の山田大八郎町長と話す機会があって、行政への要望は住民の意思がどこにどれほどあるかが先ず第一だと聞いたことから、陳情署名を集めることを思い立つ。それには身近な協力者が得られたことが大きな力となった。幼稚園、小中高のPTA会長副会長、その他に町の有力者の方々が発起人になってくれたことも大きい。
そもそもこの四十年ほど前に稲取の青年団が既に図書館の陳情書を時の町長に提出していた時代背景があった。それに「読書友の会」や「親子読書会」、「稲取読書会」などの結成が進んでいて、住民にその機運の盛り上がりの下地が出来ていた。あとは具体的に図書館設立をどう軌道に乗せていくかだ。
東伊豆町立図書館 2020年春撮影
先ずは「図書館の会」を結成して会員とともに図書館構想を作り上げてゆく。それには県内外の図書館訪問が欠かせなかった。そして既に献本活動で集めておいた本を元に出来たのがミニミニ図書館だった。町からの予算も僅かながら付いた。
しかし、図書館設立まではまだまだその先があった。その後の町の予算が付かなかったこともあり、図書館設立の流れが頓挫するかにみえた先に「図書館法に基づく請願書」を町議会に提出する案が浮上し、そのための署名集めに取り掛かった。そして集めた6273筆(総人口の37%)の署名を議長に提出。議会の議決、それを受けた行政の決断が下って遂に設立が決定したのだった。
一九八七年の運動開始から一九九二年のオープニングに漕ぎつけるまで実に足掛け六年をかけて、ようやく新しい町立図書館が奈良本にお目見えした。著者を中心とした身近な協力者、運動過程で協力の手を差し伸べてくれた町内外の有力者、町議会筋の方々、そして利用者の住民の喜びは相当なものであったに違いない。本書を読み終わって、ノンフィクションなのにまるでドラマの一つが完結したかのような感動を覚えた。
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