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畑地を借りて2014/04/29

Yさんは信州松本の生まれで、去年東伊豆町に生活の本拠をご夫婦で移した人です。信州の家は長男夫婦が守っており、ときどき様子を見に帰ることもあるという。

 

Yさんのご両親は 農業を営んでいましたが、彼はずっとサラリーマンを通し、休日に手を貸す程度でした。しかし、ご両親が引退したあと、4町歩もある土地は人に貸すことになり、ヤギやヒツジの牧場に替わりました。

 

去年、当地に移ってきたのにはいろいろ理由があったのでしょうが、土に親しむ生活が忘れられず、それならと気候が厳しい信州よりはずっと温暖な伊豆に新境地を求めたのでした。

 

伊豆に住みついてから3か月も経ったある日、散歩で近隣を歩いていたときに、国道沿いの畑で作業している老婆が目に入りました。鍬を使って畝作りをしています。何を植えるのか気になって声をかけてみました。

 

その畑は100坪くらいの広さで、土を起こしている部分は10坪程度です。他はネギ坊主が二重に5mほど並び、その隣には菜の花が一面に咲いていました。白いマルチシートに覆われた部分もあり、残りは雑草がはびこったままです。

 

老婆がジャガイモを植え付けようとしていると聞き、松本の土地を思い浮かべた彼は今更ながら、伊豆が温暖な土地であることを再認識します。そろそろどこか畑が出来る場所はないか・・・。

 

この畑の周りは引き込み道を挟んで東に資材置き場、そして海に向うその道の奥にあまり手が入っていない畑地が続いています。彼はそちらに目をやりながら、思い切って老婆に訊ねてみました。

 

「畑をやりたいんですが、どこか貸してくれる土地はないでしょうか?」すると老婆は手を休めて、この畑も借りたものだと言いながら、土地の所有者について詳しく教えてくれたのです。この畑地の遊んでいる部分が魅力的に思えた彼は早速老婆に仲立ちを頼んだのは言うまでもありません。
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資材置き場を左に見て、海の方へ向かって下りて行くと、ちょっとした小屋があり、その先にやや南斜面の綺麗に手が入った畑がありました。今朝の彼はこんもりした土手状の土を崩して麻袋に入れているところでした。今晩、東海地方に大雨が降るという情報で、急遽土嚢を用意しているのだという。

 

最初借りてから半年が経ち、他にも更に海寄りの部分をあらためて耕作する許可をもらって、ミカン畑も手に入れました。老木は思い切って伐採し、既に2年物の苗木がところどころに添え木と一緒に立っています。残したミカンの木は剪定し過ぎだと、隣の農家の方に注意されたそうです。

 

また、畑と畑の境界にお茶の木が垣根になっていて、草などを刈り払ってすっきりさせたところ、これでは防風の役目が台無しだと言われたとのこと。摘み取った茶葉を製茶所に持ち込んだところ、茎の部分が長過ぎてこのままではお茶にならないと大笑いされたこともあり、農業に経験のある彼も知らないことが多いと笑っていました。

 

周りには工事用一輪車や鋤鍬、シャベルなど、新しく揃えたと見える道具が転がっています。小屋には業者に頼んで電気も導入して動力源を確保しました。かくして、仕事しやすいように環境整備を手際よく進めています。古希を迎えて新天地の伊豆での生活に、どうやら自信を持ったらしい貫禄が彼の表情から感じられたのでした。