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「稲取七百五十一番地」2012/04/23

シャガ
伊豆稲取の「飯田店」は老舗の酒屋さんでこの土地で知らぬ人はいません。その“家族史”飯田照男著・編「稲取七百五十一番地」を読む機会がありました。

明治42年7月、伊三郎は23歳の時、城東村大川から単身稲取にやってきました。飯田店の数奇な運命はこの時から始まりました。新宿(あらしく)通りの軒先を借りて商売を始めた伊三郎は翌年伊東から嫁を迎え、二人で懸命に働きます。

それから苦節10年余にして現在地の稲取751番地に土地と家を取得することになります。そして、この家を舞台にして十男二女の子どもたちとの泣き笑い人生が展開されますが、背景に戦争という時代の影がありました。

「今に到る七百五十一番地には伊三郎・いく子の希望と失意の人生と、国の狂気に抗すべくもなく散った、ここに育った何人もの若い命の悲しい軌跡が綴られています」(前書きより)

当時の新宿通りは狭い道の両側に商店が軒を連ね大いに賑わったそうで、本書には具体的に商店の名前が挙がっていて興味がありました。そしてそれぞれに家族の歴史があったであろうことを思うと感無量のものがあります。

本書からは戦争に翻弄された一家の恨み節が読み取れます。しかしそれ以上に、一人一人の精一杯の生き様や家族の強い絆が大きな感動を与えてくれます。単なる一家族史を乗り越えて、ドキュメンタリードラマに昇華されている感があります。

本書を纏めるにあたっては関係者の記憶や日記その他の資料の採取、及び精査等に並々ならぬ苦労があったことは容易に想像できます。その上で一編のドラマに仕立て上げた著者の力量を評価したいと思います。