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農園開拓50年2014/07/17

迂回路

S農園さんは、トモロ岬からチウチンに掛けて北西に向う尾根の、西側の谷に広がる南斜面にあります。いつぞやお許しを得て、その南斜面を降りたことがあります。ずいぶん懐の深い農園という印象でした。ざっと1町歩(3000坪)あるそうですから、さもありなん。

そのときは息子さんご夫婦と奥様だけで、本日はご主人に初めてお会いいたしました。ちょうど道路際の獣対策用のフェンスを修理しているところでした。その部分の路肩が崩れ、町で補修してもらった後の、その上に立つフェンスです。

彼は静岡の人で、昭和3年生まれ。この土地を取得したのは昭和30年頃のことでした。当時、ミカン農家にとって最盛期だったのですが、彼は今一つ物足りなさを感じておりましたところ、知人が静岡から別天地に出たのを機として、彼もこの土地を購入しておいたのです。

その後10年経って、ようやく開墾を始めました。38歳の年です。この当時は静岡と、この東伊豆町との二足のワラジを履いておりました。そしていつしか、二足のワラジが重くなり、静岡を妹に譲って当地一本に精を出すようになりました。

ミカン畑に椿の木が畑を守るように何列にも並んでいます。これは彼の全くの道楽から始めたことでした。時にはツバキ油を搾ることもしてみました。しかし、満足のいく油は採れなかったので、そのまま春の開花を楽しんできたと言います。

ミカン畑は縦横にフェンスが築かれていますが、それでも猿やリスは進入してきます。そのたびにいろいろ工夫を重ねてきたそうです。先日はシカが1頭入り込んでいたのを発見。捕獲して処分しました。でも、その肉を家族はどうしても食することは出来なかったそうです。

シカは2メートルのフェンスを越えることは出来ず、入り口のゲートを開けたままにしておいたのが侵入した原因と分りました。今後は面倒でもゲートを閉めることにしようと話し合いました。それから、チウチンからの尾根の西側に小さな枝尾根があり、この尾根に沿って遊歩道を造ろうと頑張ったことがあったそうです。でも今は荒れるにまかせたまま、立ち入ることは殆どなくなったとのこと。

また、猿との意地の張合いも聞かせてもらいました。オス・メスの管の組み合わせでロックするドアを猿が持ち上げるようにして、オスの管を抜いた話は圧巻でした。その結果、ビワの実は一つ残らず彼らの餌食になったそうです。以来、フェンスには無数のトゲがついた網が張られました。


天気が良いのに、この日は海上が霞んで大島は姿を見せてくれません。湿度が安定している日には谷を挟んだ広大な南斜面の先に、東西に広がる大島の雄姿を仰ぐことが出来ます。この別天地の開拓を始めてから、間もなく半世紀を迎えようとしています。ご苦労は並大抵のものではなかったと想像されます。

最後に遠くの海を眺めながら、「苦労というより、楽しかったな」と爽やかな笑顔で洩らされた言葉が実に印象的でした。あと3,4年で迎える「S農園発足50周年」には、多くの人から賛美と祝辞が届くことでしょう。