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ふれあいの森のHL 42019/07/14

(四) ホームレス

東伊豆町の浅間山の手前に風車が3基立つ丘があります。麓の保育園や多目的グラウンドから少し上がった、第3配水場の上あたりを手始めに道路の改修工事が行われ、暫くは通行できない時期がありました。その後、工事終了の話が耳に入り、それではと、あらためて歩いてまいりました。ただし、遅い時間だったのと小雨が落ちていたのとで、風車までの往復にしました。箒木山がうっすらと浮かび、奈良本の風車尾根も少しかすんでいました。晴れた日なら展望の優れたこの丘も人の気配がなく、風車の風切りの音だけがゴーゴーと不気味に響いて、何か得体のしれない恐ろしい力に頭を抑え込まれそうな気になりました。上がってきて5分もしないうちに、いたたまれずにそこを離れたのでした。

 

工事は風車までの道が見違えるほど綺麗に整備されました。この丘はラジコングライダーの基地の一つでもあり、更にこの先の浅間山にはパラグライダーの基地があります。観光客の呼び込みにも効果があると期待されます。現在、クロスカントリーコースも整備が進み、既に立派なトイレが完成しています。今までは大会を催すにしてはお粗末だっただけに、待たれた整備でした。また、この南側のふれあいの森も傷んだ設備の修理などが終わり、双方ともサクラの季節が待ち遠しくなりました。

 

さて、ここでひとつ気になることがあります。先ずふれあいの森の展望テラスに寄って夕闇迫る風景を楽しんだあと、下のトイレがどんなものかと覗いてみたら、一人のオバアサンが片隅で段ボールにくるまってうずくまっているのを見つけました。段ボール箱をいくつか集めて、人ひとりがその中にすっぽり入るようにうまくつなぎ合わせた恰好です。先方は人が現れるのを予期していたのか、「お邪魔してます」と、比較的元気な声をかけてきたので、当方もビックリしたこともあって反射的に思わず身を引き、その場をさっと離れてしまいました。それにしても、身の周りに段ボールをめぐらせたその恰好はどうみてもホームレスのそれです。4,50年前に上野公園や、新宿などのJR駅構内でよく見かけた光景でした。


 
ところが、段ボール箱を覆った薄いビニールの膜の向こう側に一瞬顔が動いたのを認めただけでしたが、その張りのある声は聞き覚えのある声でした。すぐにピンと来ました。あの権現さんの坂道で初めてお会いしたお婆さん。その後も、私は散歩中に町中でたびたび会っています。2,3日前にも挨拶を交わしたばかりでした。春とは言え、この2,3日は冷え込んでいます。一見お年寄りとも思えるそんな人が何故こんなところに・・・。

 

初めてお会いした時から二年余りが経って、ようやく彼女の正体を見た気がしました。実は、その間にこの森に上がった時、トイレを覗いて少なくはない小荷物が所狭しと、しかし、きちんと置かれているのを目の前にして、これまでのあれこれを思い出しながら、ひょっとしたら彼女のものではないかという疑念が少しあったのです。暖かな日にこの展望台まで上がると、芝草の上に腰を下ろして海を見つめている彼女の姿が度々ありました。

 

人はさまざまな境遇の中にいます。そして不本意だと思いながらも現状に甘んじている人もたくさんいることと思います。どんな事情があるかわからない中で第三者の無用の同情は避けなければなりません。しかし、もしその人が救いの手を待っているのでしたら、手をこまねいてはいられません。あのとき、あの声を耳にしたとき、まさかという気持ちと、深入りしたくないという思惑が同時に一瞬働いたことを白状しなければなりません。さて、どうしたものか・・・。