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買い物はできたけれど(2)2023/10/02

さて、その前にもう一度構内の時刻表を見る気になったのは11時45分の次の電車の時刻を確認するためだった。稲梓駅に蓮台寺駅発11時45分の電車に万一間に合わなかった時のことを考えたに違いない。ところが一瞬、目に入ったのが11時05分発の数字だった。時計を見ると、何と、11時07分だ! ほんの少し前、ガタゴトと遠ざかってゆく電車の音が聞こえていたのを微かに記憶している。何ということだ!本来なら、あの電車に乗れたのだ。何故だ?何故見落としてしまったのか? とにかく、ベンチに戻る。日傘のご婦人に報告せねばなるまい。 

ご婦人は下田行きのバスを待つと言っていた。ベンチに戻ると、私のくだらない顛末を披露する羽目になった。すると、「お互いさま。よくあることヨ」と慰めてくれた。そして稲梓まで歩くのなら、この川沿いを行けばよいと教えてくれた。もとより承知の上だったので、この川には途中に風船ダムがありますねと話を向けると、実はその近くに住んでいると言う。しかも、この方は東伊豆町の大川出身だとのこと。ホタルで有名な「竹ガ沢公園」が近くにあり、毎年甥っ子がエサやりをしているそうだ。実家はミカン農家だった。彼女の子供の頃は山の中にポツンとあった一軒家だったが、今では周りに幾つも立派な家が建って昔の風景からは想像もできないと言う。 

彼女は現在81才。数年前にご主人に先立たれ、今は一人暮らし。でも、娘夫婦が近くにいるので殆ど毎日、顔を合わせない日はない。時には娘夫婦と裏山に上がって草取りで忙しい時期もあると言って笑った。実はご主人が残してくれたツツジが裏山を覆うかのように規模が大きくなって、春には大勢の客を迎えているそうだ。普段でも裏山に上がれば、することはいろいろある。娘夫婦も協力してくれる。励みになる仕事があるというのは羨ましい限りだ。そんな話に興じていると、下田行きのバスが来た。来春にはツツジの山を見せてもらいましょう、と言って私も立ち上がった。 

                      ❓❓❓

ところで、私が向かうのは稲梓駅である。歩きながら漠然と稲梓駅発45分(註1)には間に合わないだろうと思っていた。下田自動車教習所の入口を過ぎた時、時刻は11時25分になっていた。あと20分で稲梓駅は無理だ(註2)と悟った私はようやく踵を返す気になった。そして、やっと目が醒めたかのように炎天下、猛然と速足で蓮台寺駅へと向かったのだった。45分に間に合わなかったら、買い物後の行動が全く無意味になる。情けない気持ちは後回しにして、歯をくいしばって耐えに耐えた!駅舎のナマコ壁が見えてきて安堵したのはその5分前だった。 

ここで検証。註1は稲梓駅発ではなく、蓮台寺駅発の間違い。従って “あと20分で稲梓駅”ではなく、蓮台寺駅から稲梓駅まで4,5分かかるとして“あと24,5分で”が正しい。24,5分あれば諦めずに稲梓駅にそのまま向かったかもしれない。振り返ってみると、今回は数字の認知能力が著しく欠けていることが分かる。最初に駅構内の時刻表を見て11時台は05分と45分の2つが横に並んでいるのにもかかわらず、45分しか認知していないことが重くのしかかる。最近はときどき漢字の読み違いもするようになっている。こちらの方は視力の衰えとも関係しているのだろう。今回の数字の見落としは多分集中力の欠如からくる見落としと思われる。それにしても、この見落としは重大である。この傾向が強まれば、今後の社会生活上に何らかの影響を及ぼしかねない。ああ、年はとりたくないもんだ!