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ロス、きみを送る旅」2013/08/21

「ロス、きみを送る旅」キース・グレイ 作 野沢佳織 訳

通称イギリス(英国)はイングランド、ウェールズ、スコットランド、そして北アイルランドの四つの地域からなっています。物語のスタートはイングランド中ほどにあるクリーソープスという東海岸の町で、イングランドを横断している鉄道のターミナル駅です。

そこから鉄道とバスを乗り継いで、スコットランドの西海岸の南端にあるロスという町がこの物語の終点で、その間の親友4人による約400キロの旅のお話しです。親友4人の一人ロスは遺灰になって壺に入っているので、実際には3人です。

3人は死んだロスの遺灰の入った壺を盗み出し、虚偽にまみれた葬式ではなく真の葬式を自分たちで行おうと、生前ロスが行ってみたいと言っていた彼の名前と同じロスの町へ遺灰とともに3人で行く計画を立てたのです。彼は自転車に乗っていて、自動車事故のため不運にも死んでしまったのです。

ところが、計画を実行に移した3人はドンカスター駅でニューカッスル行きに乗り換えるとき、親友の一人ケリーが降りた電車の中にリュックサックを忘れてきてしまいます。その中にはケリー自身の切符と3人分の旅行代金(殆どケニーのお金)が入っていたことから、波乱のロス行きとなってしまいました。

ロスに到着するまでに彼らは様々な経験をし、喧嘩もします。でも、友情は揺るぎもしません。全体にウイットを交えて言葉が軽快に弾んで出て来るような感じで、話の筋も面白いのでグイグイ読み進んで行けます。

しかし、遺灰が盗まれたと言う事件がテレビで放映され、それも自転車の少年が事故死ではなく自殺した疑いが濃厚であるという衝撃的な事実が彼らの耳に入って、彼ら3人の行く末に暗雲がかかります。ここから、三人それぞれのロスに対する負い目が明らかになって、ついにシムが離脱してしまいます。彼は死んだロスに傾倒していた分、彼の自殺が許せなかったのでした。

最後に二人はやっとのことで目的地ロスに到着し、それぞれ遺灰を一掴みして、小島の灯台に向って投げることでロスに対する鎮魂の葬式としたのでした。

さて、この本のテーマは自殺です。計画立案者の主人公ブレイクが本書の最後にこう言います。「この先どんなことが起こるか、実際におこるまではわからない――生きてるって、そういうことなんじゃないかな」生きていればこそ、いろいろな経験ができる。だから生きるべきだということです。

離脱した親友の一人シムの言葉が読者に訴えます。「おれだって、自殺したっておかしくない(事情がたくさんある)だろ?けど、しない。なぜだか教えてやろうか?おれは、そんなことで死ぬほど弱くねえからだ」