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桃野の井戸2016/05/28

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桃野には井戸が二つあったんですよ。覗いてみると随分深くて、それでも光って見えた。落ちたら大変だから子供たちには、近寄っちゃいけないと注意したもんです。井戸口には四角い木枠が据えられてありましたが、年ふりて腐り、周りは草木が茂って今ではどこにあるかもわからない。だから、あの辺を歩き回るのは注意が必要です。

そもそも、桃野に井戸を掘ったのには理由があったんです。田圃には水が欠かせないもんだから、大段から流れてくる水を白田に落とさないようにと、井戸を掘って溜め込んだわけです。白田の人達にとってはとんでもない話だったですがね。昔から白田と稲取では水争いが絶えなかったのも、水利が死活問題だったからです。

桃野に水芭蕉を植えたことがありましてね。長野からもらい受けて移植したんです。周りに石を敷き詰めて流されないようにしておいたのが、様子を見に行ったら姿形もなかった。やっぱり流されてしまったんだね。町議会で追及されたことがありましたよ。何故植えたかって?そりゃあ、尾瀬みたいに立派な湿原にしてみたかったからですよ。

八丁池へは桃野から中の段を超えて尾根筋に並行してゆきました。ずっと行くと、左手にとんがり石というのがあって文字どおり尖った大石で、そこから先は林の中をゆくようになります。そこまでは結構人が歩いたから踏み跡が出来てましたね。子供たちだけでも小学校高学年以上を年3回引率していったし、冬は子供たちがスケートをしに行ったり、水下入谷の農家の人たちが、川の水が少なくなると、八丁池へ雨ごいに年2回は行ったもんですよ。

雨ごいでは、八丁池は浅い池だったんで、農家の人たちはふんどし一丁で池の中に入って、「あめあめどっこいしょ、XXXで」と繰り返し歌って水をバシャバシャやってましたよ。冬になって氷が張ると、孟宗竹を割ってこしらえたのを履いて子供たちは滑って遊んだんです。

八丁池へは朝早く家を出て、午後3時か4時頃には帰ってきてましたね。みんな足が速かったですよ。でも、一度、道を間違えて白田側へと降りそうになったことがありましたな。暫くして登り返しましたがね。城東村で湯ヶ島に下ったグループがあって、大騒ぎになったこともありました。

こんなこともありました。ある時、一人の生徒が動けなくなってしまいましてね。とんがり石の手前の所でした。生徒を一人残しておくわけにはいかない。この先は、子供たちの引率を他の先生方に頼んで私がね、この子を負ぶって家に連れ帰りましたよ。道中、「いいか、しっかりつかまってるんだぞ」と言い聞かせながら歩いたのを覚えてますよ。この子はヒョロヒョロの子で、重くはなかったので助かりました。その上、私はとってかえして、一人でみんなの後を追いました。あの当時は私も体力があったんです。

とんがり石は魔のところでしてね。防火線の出番の時だったかな、草の斜面で滑ってしまい、勢いが止まらず散々な目にあったことがあるんですよ。あっちこっちに体をぶつけて痛い目にあいました。仲間が消防車を呼んできて半ば強引に乗せられました。私は大丈夫だからと断ったんですがね。そうそう、その時はナタを新調して持ってきてたんですがね。どっかへ吹っ飛んで無くしてしまったですよ。