<><><><><><><><><><><><><><><><><><>

「南木曽の木地屋の物語」2012/12/17

「南木曽の木地屋の物語――ろくろといたどり」松本直子著 未来社

木地師(広辞苑)
轆轤(ろくろ)などを用いて木材から盆や椀などの日用器物を作る人。木地屋、ろくろ師。

著者によれば木地屋の先祖は琵琶湖東岸の近江の国愛知郡東小椋村だそうで、材料となる優れた木を求めてそこから日本全国へ散らばっていったという。矢筈山の麓の「鹿路場峠」はどうやら木地屋にちなんだ名前らしい。つまり、伊豆にも木地屋が移り住んできたということです。

明治の時代になってから彼等は南木曽に定住するようになり、浮き沈みをくりかえしながら連綿と木地師の技と心を伝えてきました。本書は木工を学ぶために木曽福島に来て、そこの木地屋に教えを請うようになった著者がやがて木地屋の昔と今に魅せられ、その後、南木曽の漆畑を中心に多くの人と交流した記録です。

「・・・体中をめぐる血脈のような、人々が行き交う道が木曾の山々にはあった。昔そこには、自然の移ろいとともに息づく植物や動物、人などの命の蠢きや、沢を駆け下る大蛇や龍王がいつも身近に感じられたことだろう。三百六十度を山々に囲まれたドームのような木曾谷は、山に生きるたくさんの命の息吹の感じられる躍動感あふれる小宇宙なのだ・・・」

これを読むと、著者の木曽谷に寄せる思いが伝わってきます。また、南木曽の「蛇抜け」の話しがおもしろい。蛇抜けとは山津波や土石流のことだそうです。南木曽には蛇のついた地名が多いらしい。そういえば、南伊豆町に「蛇石」という地名があるが、山から大岩が押し流されてきたことから付いた地名なのかもしれません。

それから、「霜月新月の日に伐った木は質が良く丈夫で長持ちする」という言い伝えが南木曽にあり、実はドイツやオーストリア・チロル地方にもあるということです。

以上のようにいろいろと啓発される話が詰まった本ですが、何よりも木地屋とそのふるさとへの著者の深い愛着が感じられ、一種文学書を読んだような感動を味わいました。