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「ゴールデン・バスケットホテル」2013/04/15

「ゴールデン・バスケットホテル」
ルドウイッヒ・ベーメルマンス作  江國香織訳

ベルギーのブルージュという街の、とあるホテルに幼い姉妹とその父親が馬車で乗りつけました。この姉妹は物事に対して常に興味津々です。作者はそれに応えるかのように、先ずはその泊まった部屋の家具の一つ一つや窓から覗いた外の様子を事細かく描写し始めます。

次いで食堂での朝食の風景、そしてホテルオーナーがシェフでもあるその仕事場の厨房や、夫人が担当の帳場にいたるまで語られます。その後、街にくりだすと、街の何気ない様子が描かれてゆきます。

つまり、その表現は各キャラクターがシナリオに沿って演ずる諸々の場面の忠実な写実で、あたかも写真(フォト)の芸術性と同じように面前に展開されたシーンを狙い通りに切り取るために、寸分も狂いなき瞬間に全力を注いでいるかのように見えます。

ですから、淡々とした叙述に過ぎない事柄が、嫌みのない爽やかな印象を確実に与えてくれています。しかも、ストーリー性のあまりない叙述故に、ちょっとしたユーモアがかえってワサビのような効果を上げているのです。

終りのほうで、主人公の姉妹とホテルオーナーの親子が一緒にボートに乗って転覆し川に投げ出されるシーンがありますが、本書で唯一のドラマチックな部分です。でも、この場面でさえ、漫画チックな描写がこの場面をより一層印象的なものにしていました。

本書は挿絵が内容を語っているにもかかわらず、“絵のない絵本”のような読後感を味いました。