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キンメはイカで釣る その12009/01/27

雛の館
ヤオハンで買い物したあと、文化公園でお弁当を食べていたら、幼稚園の園児たちのおしゃべりが聞こえてきました。港で食事していた子供たちが帰ってきたのです。“むかい庵”で吊るし雛を見てきたということです。

この文化公園の吊るし雛は園児たちにとってはお膝元なので、馴染みのはずです。でも、1キロは離れている港のもうひとつのメーン会場まで遠足して見てきたというのは、えらいことです。車が往来する狭い通りを長い列を作って歩き、漁船がずらりと並ぶ港まで行ってきたのですから。

文化公園の雛の館にはぽつんぽつんと観光客が詰めかけています。先ほどヤオハンで買物する前、大型の観光バスも一台乗り入れていました。見ていると、やはり女性のお年寄りか中年のグループが多いですね。男性の一人か男性のグループは、さすがに見かけませんでした。男性の場合はカップルが殆どです。会場の前の寒緋桜が早くも3分咲きで、訪れる人を迎えています。

足湯では常連のオバサンからみかんをもらい、また来てね、と声をかけられました。文化公園を出て例によって狭い路地に入ると、4,5人のお年寄りが高声で話しに夢中なところに出くわしました。
「○○水産のオヤジが死んだそうだよ」
「オヤジって誰かね?」
「だから○○水産のオヤジだよ」
日が暮れてしまいそうな話を耳にしながら、その前を通り過ぎて、いつのまにか八幡神社の参道に出ました。折角だからと参拝したあと、参道脇の八百屋の前を通ると店の婆さんが言い寄ってきました。なかなかの話し上手で、つい勧められてひと品、ふた品買います。この店の前は何回か通り過ぎていて、だいたいの様子は知っておりました。特に、店の奥が空き箱やら屑箱やらで足の踏み場がないほど、いつも散らかっているのが気になっていました。婆さん以外に店の人はいないようです。一人暮らしかも知れません。年恰好は80過ぎ。 つづく

キンメはイカで釣る その22009/01/27

八幡神社
「それとこれとで910円ね、10円マケとくから、ハイ100円のおつり」
少し間を置いてから、女房殿が首を傾げているので、どうしたのか聞くと、つり銭がおかしいと言います。言われて私もようやく気がつきました。360円と350円とで合計710円とすると、おつりは300円のはずです。

つり銭を渡した婆さんは、すぐ後にやってきた二人連れのほうに話しかけ始めました。私たちへの接客はもう済ませたという感じです。私は女房殿に耳打ちして、その場を離れました。

「あのお婆さん少し頭がおかしい感じだわ」
確かに目はうつろでそんな感じがします。計算がいつもあやふやだとすると、土地の人たちは買いに来ないでしょう。でも、女房殿は、名所のひとつである八幡神社に参拝した観光客相手なら、これでやっていけるのではないかと言います。多分、つり銭が少なかったり、逆に多かったりしているのだろうと思われますが、まあ、何とかなっているのでしょう。

「それより、あのゴミくずの山、なんとかならないのかな? ボランティアできれいにしてあげようかなあ」
「それはしないほうがいいわよ。綺麗になったらなったで、あの人よっぽどおかしくなるわ、きっと。だって、そういう人がいるもの」なるほど、そうかも知れません。ゴミくずも宝の山になるかも? つづく

キンメはイカで釣る その32009/01/27

むかい庵のつるし雛
港に戻ると、漁船が一艘、また一艘と上がってきます。接岸している船からキンメダイが陸におろされているのを飽きずに眺めます。赤い肌が実に綺麗で上品です。市場を覗くと一匹一匹秤にかけて重さを量っていました。10数人の人が立ち働いています。量り終わったキンメはケースいっぱいになると、氷粒がたくさん入った大きな水槽のなかに運び込まれます。‘せり’が始まるまで、そこに保管されるのでしょうか。入線してきた船から直接買い取っている姿も見かけます。その辺はどういうシステムになっているのか、私どもにはわかりません。

きょうの終わりは‘むかい庵’の中を見学することです。
‘むかい庵’の吊るし雛は立派なものでした。マンションの管理人さんの話では、吊るし雛の展示を大々的に始めたのは“むかい庵”だったそうです。私たちのマンションの直ぐ下に‘稲取漁協’とシャッターに大きく書かれた細長い建物があって、いつもは閉まっていたのが、吊るし雛祭りが始まると同時に店をあけました。海産物や軽食を商います。そして、この建物と駐車場を挟んでいるのが“むかい庵”で、吊るし雛の展示場になっているのです。

先ず、手前の実売場に入りました。閑散とした場内には売り子のオバサンが数人、歓迎してくれました。ここで寒天を買い、おしる粉とコーヒーを注文します。寒天は稲取のもうひとつの名産だそうで、私たちはそのことを、このあいだ片瀬白田の日帰り温泉で知ったばかりです。うす酢につけたナマコの付け出しをサービスしてもらいましたが、アワビよりも硬くて文字通り閉口しました。
むかい庵のなかはぐるりと一周するようになっており、いずれのコーナーも立派なお雛様が飾られ、その両脇に燦然と吊るし雛が垂れていました。見事と言うほかありません。新しく作られたという吊るし雛の歌が伝統の重みをしめやかに語りかけていました。 つづく

キンメはイカで釣る その42009/01/27

キンメはイカで釣る
さて、帰り道の坂を上がりかけたところで、家の前に座り込んで釣り針に餌をかけている漁師さんの姿が目に入りました。先日も家の前にうずくまっていたのを思い出しました。漁の準備をしていたのです。ある程度の年配の方で、どすぐろいけど人の良さそうな顔立ちです。思わず声をかけました。
「餌は何を使っているのですか?」
「イカだよ」
「波止場で見たのは赤い肉でしたけど」
「あれは赤く塗ったからだよ」
脇にあるテングスの糸は大きな円に巻かれています。とっさにキンメ漁の糸だと理解しました。そこで、糸の長さを聞くと、水面から5,60メートルも垂らすと言います。しかも、倍の100メートルの糸が更に必要だということです。大変な長さの釣り糸で釣るわけです。キンメダイは深海魚ですからね、ある程度は想像していましたが。

キンメダイは夜釣りをするというのは、夜になると浮き上がってくるからではないかと、女房殿が前々から言っておりましたので、その点を聞いてみると、その通りだと言っておりました。それから獲れるからと、獲れるだけ獲ってしまうと、次の年は不漁になるとのお話です。だから、仲間どうしで調整するのだそうです。組合で相談するのかと聞くと、仲間うちだと言われましたので、またまた、その辺の事情が分からなくなりましたが、この場で深く突っ込むのは遠慮いたしました。いつかまた聞いてみたいことのひとつです。

途中から奥さんも出てきて話に加わってもらい、“ご近所”の第一歩を踏み出すことができた感じです。いろいろと教えてもらうことがたくさんありますから、ご近所付き合いを大事にしたいものです。 おわり